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音本チャンネル 七味春五郎

朗読live 宮沢賢治の音 「無声慟哭、永訣の朝、松の針、雨ニモマケズ、告別」

Last updated 2023-12-09 08:58:11

動画要約まとめ

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無声慟哭  宮沢賢治 こんなにみんなにみまもられながら おまへはまだここでくるしまなければならないか ああ巨きな信のちからからことさらにはなれ また純粋やちひさな徳性のかずをうしなひ わたくしが青ぐらい修羅をあるいてゐるとき おまへはじぶんにさだめられたみちを ひとりさびしく往かうとするか 信仰を一つにするたつたひとりのみちづれのわたくしが あかるくつめたい精進のみちからかなしくつかれてゐて 毒草や蛍光菌のくらい野原をただよふとき おまへはひとりどこへ行かうとするのだ   (おら おかないふうしてらべ) 何といふあきらめたやうな悲痛なわらひやうをしながら またわたくしのどんなちひさな表情も けつして見遁さないやうにしながら おまへはけなげに母に訊くのだ   (うんにや ずゐぶん立派だぢやい    けふはほんとに立派だぢやい) ほんたうにさうだ 髪だつていつそうくろいし まるでこどもの苹果〔りんご〕の頬だ どうかきれいな頬をして あたらしく天にうまれてくれ   ((それでもからだくさえがべ?))   ((うんにや いつかう)) ほんたうにそんなことはない かへつてここはなつののはらの ちひさな白い花の匂でいつぱいだから ただわたくしはそれをいま言へないのだ    (わたくしは修羅をあるいてゐるのだから) わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ ああそんなに かなしく眼をそらしてはいけない 永訣の朝 けふのうちに とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ    (※あめゆじゆとてちてけんじや) うすあかくいつそう陰惨(いんざん)な雲から みぞれはびちよびちよふつてくる    (あめゆじゆとてちてけんじや) 青い蓴菜(じゆんさい)のもやうのついた これらふたつのかけた陶椀(たうわん)に おまへがたべるあめゆきをとらうとして わたくしはまがつたてつぱうだまのやうに このくらいみぞれのなかに飛びだした    (あめゆじゆとてちてけんじや) 蒼鉛(さうえん)いろの暗い雲から みぞれはびちよびちよ沈んでくる ああとし子 死ぬといふいまごろになつて わたくしをいつしやうあかるくするために こんなさつぱりした雪のひとわんを おまへはわたくしにたのんだのだ ありがたうわたくしのけなげないもうとよ わたくしもまつすぐにすすんでいくから    (あめゆじゆとてちてけんじや) はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから おまへはわたくしにたのんだのだ  銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの そらからおちた雪のさいごのひとわんを…… ……ふたきれのみかげせきざいに みぞれはさびしくたまつてゐる わたくしはそのうへにあぶなくたち 雪と水とのまつしろな二相系(にさうけい)をたもち すきとほるつめたい雫にみちた このつややかな松のえだから わたくしのやさしいいもうとの さいごのたべものをもらつていかう わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ みなれたちやわんのこの藍のもやうにも もうけふおまへはわかれてしまふ (※Ora Orade Shitori egumo) ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ あああのとざされた病室の くらいびやうぶやかやのなかに やさしくあをじろく燃えてゐる わたくしのけなげないもうとよ この雪はどこをえらばうにも あんまりどこもまつしろなのだ あんなおそろしいみだれたそらから このうつくしい雪がきたのだ    (※うまれでくるたて      こんどはこたにわりやのごとばかりで      くるしまなあよにうまれてくる) おまへがたべるこのふたわんのゆきに わたくしはいまこころからいのる どうかこれが兜率(とそつ)の天の食(じき)に変(かは)つて やがてはおまへとみんなとに 聖い資糧をもたらすことを わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ 松の針 さつきのみぞれをとつてきた      あのきれいな松のえだだよ    おお おまへはまるでとびつくやうに    そのみどりの葉にあつい頬をあてる    そんな植物性の青い針のなかに    はげしく頬を刺させることは    むさぼるやうにさへすることは    どんなにわたくしたちをおどろかすことか    そんなにまでもおまへは林へ行きたかつたのだ    おまへがあんなにねつに燃され    あせやいたみでもだえてゐるとき    わたくしは日のてるとこでたのしくはたらいたり    ほかのひとのことをかんがへながら森をあるいてゐた       《ああいい さつぱりした        まるで林のながさ来たよだ》    鳥のやうに栗鼠(りす)のやうに    おまへは林をしたつてゐた    どんなにわたくしがうらやましかつたらう    ああけふのうちにとほくへさらうとするいもうとよ    ほんたうにおまへはひとりでいかうとするか    わたくしにいつしよに行けとたのんでくれ    泣いてわたくしにさう言つてくれ      おまへの頬の けれども      なんといふけふのうつくしさよ      わたくしは緑のかやのうへにも      この新鮮な松のえだをおかう      いまに雫もおちるだらうし      そら      さわやかな      terpentine(ターペンテイン)の匂もするだらう 雨ニモマケズ 雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラッテヰル 一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ ヨクミキキシワカリ ソシテワスレズ 野原ノ松ノ林ノ※(「「蔭」の「陰のつくり」に代えて「人がしら/髟のへん」、第4水準2-86-78)ノ 小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ 東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ朿ヲ[#「朿ヲ」はママ]負ヒ 南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ 北ニケンクヮヤソショウガアレバ ツマラナイカラヤメロトイヒ ヒドリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ 告別