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4.7 なにがしの院に移る
月夜に出れば月に誘惑されて行って帰らないことがあるということを思って出かけるのを躊躇(ちゅうちょ)する夕顔に、源氏はいろいろに言って同行を勧めているうちに月もはいってしまって東の空の白む秋のしののめが始まってきた。
人目を引かぬ間にと思って源氏は出かけるのを急いだ。女のからだを源氏が軽々と抱いて車に乗せ右近が同乗したのであった。五条に近い帝室の後院である某院へ着いた。呼び出した院の預かり役の出て来るまで留めてある車から、忍ぶ草の生(お)い茂った門の廂(ひさし)が見上げられた。たくさんにある大木が暗さを作っているのである。霧も深く降っていて空気の湿(しめ)っぽいのに車の簾(すだれ)を上げさせてあったから源氏の袖(そで)もそのうちべったりと濡(ぬ)れてしまった。
「私にははじめての経験だが妙に不安なものだ。
いにしへもかくやは人の惑ひけんわがまだしらぬしののめの道
前にこんなことがありましたか」
と聞かれて女は恥ずかしそうだった。
「山の端(は)の心も知らず行く月は上(うは)の空にて影や消えなん
心細うございます、私は」〜
4.8 夜半、もののけ現われる
十時過ぎに少し寝入った源氏は枕(まくら)の所に美しい女がすわっているのを見た。
「私がどんなにあなたを愛しているかしれないのに、私を愛さないで、こんな平凡な人をつれていらっしって愛撫(あいぶ)なさるのはあまりにひどい。恨めしい方」
と言って横にいる女に手をかけて起こそうとする。こんな光景を見た。苦しい襲われた気持ちになって、すぐ起きると、その時に灯(ひ)が消えた。不気味なので、太刀(たち)を引き抜いて枕もとに置いて、それから右近を起こした。右近も恐ろしくてならぬというふうで近くへ出て来た。
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朗読:日髙徹郎 Ted Hidaka
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