YouTube - 動画概要欄 -
山本周五郎が描く、異色の和製シャーロック・ホームズ!(再録です)
① あらすじ
ホームズは銀座裏で、ドノバン一味の片腕ヒギンスを密かに呼び出し、「共同で宝玉を狙う」と持ちかける。ヒギンスは“寝返りは打たない”と誓うが、実際は麻布の隠れ家でドノバンと大笑いし、ホームズを罠にかける算段を進めていた。
だが、彼らが横浜・支那街の品芳楼へ踏み込むと、待っていたのは灰色外套の支那人・寒石麒の武装した手下たち。寒石麒は「銀製の筐」や「老婆」の件からホームズの関与を疑うが、老婆ロブスンの証言で相手違いと判明する。そこでドノバンは寒石麒に取引を持ちかけ、双方が持つ「王の書面」を突き合わせるため、東京駅で会う約束を取り付ける。
しかし、その“会合”こそホームズの狙いだった。新聞売りの乞食老人に化けたホームズは、変装した警官隊を周囲に配置し、東京駅プラットフォームでドノバン、ヒギンス、寒石麒を一網打尽にする。これで「王の書面」はついに四枚揃い、宝玉の所在解明へ進む――はずだった。
ところが祝杯の夜、届いた二つの花束のうち一つが不吉な“解放宣言”だった。ドノバンと寒石麒が護送中に脱走し、再び東京に戦雲が立つ。ホームズは拠点を新橋アパートへ移し、真田男爵邸で四枚の書面を突き合わせようとするが、直前に書庫で書生・成田が刺殺され、男爵邸の一枚が奪われてしまう。
それでもホームズは冷静に告げる――「写しは取ってある」。四十年封じられた秘文の鍵が、今、卓上に並べられようとしていた。
② 登場人物一覧
シャーロック・ホームズ:名探偵。変装と策略で「王の書面」を三通まとめて“持参させる”罠を張る。
凡太郎(ぼんたろう):ホームズ助手。横浜・東京駅で連携し、尾行や監視を担当。
ディック・ドノバン:悪党の首領格。強欲で狡猾、脱走も平然とやる。
ヒギンス:ドノバンの相棒。裏切りを装うが、結局は裏切る(そして捕まる)。
寒石麒(かん せきき):灰色外套の支那人。書面を二通持ち、武装した手下を率いる黒幕。
ロブスン婆さん:帝国ホテルに筐を取りに来た老婆。寒石麒側の証人。
村田刑事課長:警視庁。ホームズと協力するが、護送ミスでドノバンらを逃がす。
真田男爵:男爵邸当主。病身。邸に保管していた「王の書面」一枚が狙われる。
静子/文子:男爵の令嬢たち。静子は花束で敬慕を示す。
栗山忠作:執事。書庫殺人を通報、事件の動線に関わる。
成田:書生。書庫で刺殺され、第二の殺人事件の引き金となる。
変装警官隊:プラットフォームに配置された“咳の合図”の網。
③ 読みにくい難漢字集・用語集(読み/意味)
虎狼(ころう):虎と狼。転じて凶悪な者。
鳥打帽(とりうちぼう):ハンチング帽。
葡萄酒(ぶどうしゅ):ワイン。
饒舌(じょうぜつ):よくしゃべること。
迂闊(うかつ):注意が足りない。
屈強(くっきょう):頑丈で強い。
赭ら顔(あからがお):赤ら顔。
訝しい(いぶかしい):疑わしい。
間諜(かんちょう):スパイ。
虻蜂とらず(あぶはちとらず):二兎追う者は…の類、両方失う。
尻眼(しりめ):横目。
襤褸襤褸(ぼろぼろ):破れた衣服。
嗽(うがい/しわぶき):文脈的には咳払い寄り。
蹲みこむ(うずくまる):しゃがみ込む。
蒼白(そうはく):青ざめる。
佩剣(はいけん):帯びている剣。
本営(ほんえい):作戦の本拠。
河岸(かし):川沿いの地。
抱竦める(だきすくめる):後ろから強く抱きついて動けなくする。
踏段(ふみだん):踏み台の段。
灯心草(とうしんそう):灯火の芯にする草(意匠・紋章表現)。
駱駝(らくだ):ラクダ。
偸む(ぬすむ):盗む(旧字・文語)。
無間地獄(むげんじごく):絶え間ない苦しみの地獄。
厳粛(げんしゅく)/誓文(せいもん):重々しい誓いの文言。
【帝都・東京に名探偵現る! 丸ノ内廃館の密室殺人と消えた二億円の秘宝】
時は明治か大正か。深夜の東京・丸ノ内、通称「五号館」と呼ばれる不気味な廃墟。 浮浪児の少年・凡太郎は、そこで女性の悲鳴を聞きつける。駆けつけた彼が目にしたのは、奇妙な「毒矢」によって絶命した着物姿の美人の死体と、闇へと消える謎の男の影だった。
翌朝、捜査に行き詰まった警視庁の村田刑事課長が助けを求めたのは、帝国ホテルに滞在中の英国紳士ウイリアム・ペンドルトン。彼こそが、世界に名だたる名探偵シャーロック・ホームズその人であった。
現場に残されたゴリラのような足跡、雨樋の手形、そして謎の「灰色の外套の男」。 ホームズの鋭い推理は、やがてモンゴール王の「二億万円の宝玉」にまつわる壮大な秘密と、横浜中華街(南京街)に潜む恐るべき「怪ラマ食人種」の存在を暴き出していく。
浮浪児・凡太郎を助手(ワトソン役)に迎え、ホームズが日本の帝都を疾走する! 山本周五郎が描く、異色の捕物帳ミステリー。
主要人物
シャーロック・ホームズ(ウイリアム・ペンドルトン)
英国から来た世界的な名探偵。現在は「ウイリアム・ペンドルトン」の偽名を使い、帝国ホテル十五号室に滞在している。鋭い眼光と蒼白い顔、左足を少し引きずるのが特徴。
凡太郎(ぼんたろう)
丸ノ内界隈をねぐらとする浮浪児。栗鼠(リス)のようにすばしこく、口笛の名人。第一発見者であり、ホームズの手足となって捜査に協力する。
村田 俊一(むらた しゅんいち)
警視庁刑事課長。ホームズの正体を見抜き、難事件の捜査協力を依頼する。
事件関係者
被害者の婦人
五号館で殺害された和服の美人。正体は真田男爵の妹。
灰色の外套の男
現場から立ち去った肥った老人。後に何らかの証拠品を探しに現場へ戻ってきた疑いがある。
謎の老婆
ホームズが拾得した「銀製の筐(はこ)」を受け取りに現れた、西洋人の血が混じった小柄な老婆。
小男の怪人
ホームズが推理した実行犯。身長120センチほど、裸足で雨樋を伝う身軽さを持ち、毒矢(吹矢)を操る。
背景
真田男爵(先代)
日清戦争時、奥蒙古で特殊任務に就いていた人物。物語の鍵となる「宝玉」の秘密を握る。