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枕草子二百七段「笛は横笛」
笛は横笛、いみじう をかし
遠うより聞ゆるが、やうやう近うなりゆくも をかし
近かりつるが はるかになりて、いとほのかに聞ゆるも、いとをかし
車にても徒歩にても馬にても、すべて懷にさし入れてもたるも、
何とも見えず さばかり をかしきものはなし
まして聞き知りたる調子など、いみじう めでたし
曉などに、忘れて
枕のもとにありたるを見つけたるも、猶をかし
人の許より取りにおこせたるを、
おし包みて、遣るも、ただ 文の やうに見えたり
笙の笛は、月のあかきに、
車などにて聞えたる、いみじう をかし所せく、
もてあつかひにくくぞ見ゆる 吹く顏やいかにぞ
それは横笛もふきなしありかし
篳篥(ひちりき)は、いとかしまがしく、
秋の蟲を いはば、轡蟲(くつわむし)などに似て、
うたて けぢかく 聞かまほしからず
ましてわろう吹きたるは いと にくきに、
臨時祭(りんじさい)の日、いまだ御前には 出ではてで、
物の後にて、横笛を いみじう 吹き立てたる、
あなおもしろと聞くほどに、 半ばかりより、うちそへて
吹きのぼせたる程こそ、
唯 いみじう 麗しき髮持たらん人も
皆立ち上りぬ べき 心地ぞする
やうやう 琴・笛 あはせて歩み出でたる、
いみじう をかし
朗読:日髙徹郎 Ted Hidaka