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元服後の源氏はもう藤壺の御殿の御簾(みす)の中へは入れていただけなかった。琴や笛の音(ね)の中にその方がお弾(ひ)きになる物の声を求めるとか、今はもう物越しにより聞かれないほのかなお声を聞くとかが、せめてもの慰めになって宮中の宿直(とのい)ばかりが好きだった。五、六日御所にいて、二、三日大臣家へ行くなど絶え絶えの通い方を、まだ少年期であるからと見て大臣はとがめようとも思わず、相も変わらず婿君のかしずき騒ぎをしていた。新夫婦付きの女房はことにすぐれた者をもってしたり、気に入りそうな遊びを催したり、一所懸命である。御所では母の更衣のもとの桐壺を源氏の宿直所にお与えになって、御息所(みやすどころ)に侍していた女房をそのまま使わせておいでになった。更衣の家のほうは修理(しゅり)の役所、内匠寮(たくみりょう)などへ帝がお命じになって、非常なりっぱなものに改築されたのである。もとから築山(つきやま)のあるよい庭のついた家であったが、池なども今度はずっと広くされた。二条の院はこれである。源氏はこんな気に入った家に自分の理想どおりの妻と暮らすことができたらと思って始終歎息(たんそく)をしていた。
光(ひかる)の君という名は前に鴻臚館(こうろかん)へ来た高麗人(こまうど)が、源氏の美貌(びぼう)と天才をほめてつけた名だとそのころ言われたそうである。
朗読:日髙徹郎 Ted Hidaka
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